漆に秘められた
可能性

漆は木から採集される東アジア特有の樹脂です。日本では縄文時代より、土器をはじめあらゆる器物に耐久性を求め、また或る時には彩色や加飾を施し、人々の心を慰め魅了してきました。

奈良時代の仏像彫刻の傑作“阿修羅像”は粘土で成形された原形に麻布を張り重ね、その上をコクソ〈木粉と漆などを練り合わせた物〉と言われる下地漆で細部を整え、漆を塗って仕上げた脱乾漆像としてあまりに有名です。

先人の残してきた漆の仕事と技法は実に幅広くかつ豊かで、まことに驚くばかりでありますが、現代においてもなお創造性あふれる可能性を秘めた自然からの恵み、それが漆ではないかと私は思います。

出会いから生まれる仕事

物づくりの世界に入り40年が過ぎ、振り返りますと実に多くの人にお会いし、様々な物たちとの出会いがありました。そして、その出会いによって、どれほど勇気づけられ癒されてきたことか。どうも考えるに私の仕事は、その出会いの延長上に成り立っているようです。還暦を過ぎました今でも毎日が発見であり試行錯誤の連続であります。私を支えてくれている大勢の皆様、偉大な自然に感謝しながら日々誠実に、『悠久の漆の歴史に時を刻む!』べく、漆の仕事に励んでいきたいと願っています。

私が、今考えていること・・・

山深い木曽谷に暮らし、漆の仕事をしていると様々なことが頭をよぎります。それは人生についてであり、世界で起きている様々な事象であったりと毎日日替わりです。人間とは不思議で、自分のことさえよく解りません。自分の能力・資質などなおさらです。いずれにせよ“たいしたことはない!”ただひたすら己の正体を見極めるべく、日々あがきもがき続けるだけのようです。

令和3年11月
伊藤 猛

所在地